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高度成長期は、忠誠心というこのたった一枚のパスポートで会社が生涯の面倒をみてくれた。
しかも地位も月給も年功に応じて上げてくれた。 ところが今どきそんな一枚のパスポートはもう適用しない。
ともあれこれからのサラリーマンは、自分のストレス解消法をもつ必要がある。 よく雑誌などに、ジャーナリストやら学者あたりが、サラリーマンはグチなどいうなと書いている人がある。
しかし私はいろいろな経営者と話すが、やはりグチをいったことのないサラリーマンなどは、あまり信用できないといっている。 グチをいわなければならないほどのことをやらないと、とても一人前とはいえない。

逆説的ないい方をするようだが、ぼやきとかグチをいわないサラリーマンなど、私はたいして買わない。 グチをいったことがなかったり、ぼやいたことがないサラリーマンはどこか間の抜けたところがある。
鈍感なところがある。 あるいは人に誇れるだけの仕事をしていないか、あまりにも要領がよすぎるかの、どちらかであろう。
人より抜きん出られるかサラリーマンの腕前を伸ばすのは、何といっても人より抜きん出ていこうという努力や自負心のようなものである。 それがやはり向上心のベースにある。
企業の中での自己実現というものは、そういうものである。 だから出世レースに全く関心のないサラリーマンはもうひとつダメなところがある。
やはり上にあがるほど、大きな仕事ができる。 出世、出世と騒ぎすぎるサラリーマンもたいしたことはないが、出世にまるで関心のないサラリーマンは、もうひとつダメである。
出世にこだわりすぎる社員は、あなたまかせのサラリーマン人生という、どこかで醒めている部分ももっていないから人間的な幅がない。 たとえば、運のように自分の努力だけではどうにもならないものがたくさんあるということに対してあきらめが悪すぎる。
たいていのサラリーマンは出世レースを懸命にやっているが、これはべつに人格競争をやるわけではない。 また正確にいえば実力競争でさえない。
したがって出世した人が社会的に尊敬できるかどうかはわからない。 人間的にロクでない人でも、出世ぐらいはできるものだ。
ゴマスリ一途でやっても、何とか重役クラスになれるケースも意外にある。 ただし、サラリーマン社会では出世する人はやはり偉いといえる。

サラリーマンとして、何かしたたかさやひたむきの努力のようなものをもっているとはいえよう。 能力のあるサラリーマン、人格が人なみ以上にすぐれた人物だけが出世するのなら、これほどサラリーマン社会がおもしろくないものはない。
とはいえ、この現実に耐えるには、まともなサラリーマンなら、ついぼやきたくもなるのである。 つまり私のいいたいのは、サラリーマンも大いにぼやくべきだが、一方でそれをたくみに自己コントロールすることも必要である。
その相手が友人であったり、仲間であったり、あるいは趣味や学習であったりする。 会社の中にしかグチをこぼす相手がないというのは淋しすぎるし、またそれじゃ相手になめられるだけである。
経営者には孤独な勇気が必要いまはハートのスタミナを鍛えていくのがいちばん大事な時代だが、かえってそこを避けようとする傾向が非常に出ているのではないか。 たとえば、いま、世の中ネアカブームで経営者と新人類がこぞってネアヵ、ネアカといいだし、そのぶん中高年と団塊の世代がネクラのようになってきている。
経営者がネアカブームといういい方はわからないことはない。 最近の企業社会は一種のネクラのようになってきているから、せめてトップだけでも明るい顔をしてほしい。
そのことはわかるが、しかしそれだけではないと思う。 いまトップにも、指導力、決断力というリーダーシップが要求されているが、にもかかわらず肝心の経営者は決断力というものを恐れだしてきたのではないだろうか。
全員一致のボトムアップ式経営になれすぎてしまって、決断力を恐れるようになったのではないか。 決断力というのはどうしても孤独なところがある。
ネクラのところは避けられない。 ネアカでウハウハ笑いながら決断していくものではあるまい。

決断は経営者にとっても、管理職にとっても孤独がつきまとう。 決断とは、いってみれば最終的な判断のようなものだから、いろいろな人の意見は聞いても、資料をいくら集めてみても、最後のところは自分で決断する。
経営手腕に自信をもった精神的に強い経営者というのは、むしろネアカよりもネクラの複雑な部分をもっているといえる。 戦前のMの大番頭といわれたIにしても、一代の事業家Kにしてもネクラの部分はある。
Iなどは、毎日、もう会社へ行くのはいやだといって奥さんをさんざん困らせていたという。 Mさんあたりなどは最近のネアカブームを、これはネアカではなくて、ネバカだといっている。
多分そうだろうと思うが、これはあまりいい傾向ではない。 経営者にしても管理職にしても、ワンパターンのネアカ人間ではなくて、もう少し複雑なものをもっていないといけないだろう。
経営者のストレスともなれば、カラオケで軽々とストレス解消できる程度のものではない。 それを経営者も管理職も揃ってカラオケで、オレ主役、オレまだ現役、ハッピーハッピーと歌っているが、そんなものではあるまい。
これからますますそういった孤独な決断とか、孤独な勇気とかがいるようになる。 より深く考えるということは当然のことながら、ネクラになっていく。

決断というのは、多様な選択肢の中からまよいながら選択していく危うい不透明なところがある。 判断と決断の聞には越えがたいハードルがある。
偏差値優等生のペーパーテストのようにペケ・マル式のどちらが正しいかというものではない。 その中で自分が判断し、そこに賭けていくものなのである。
エリートの欠点最近、新人類の健康ブームがサラリーマンにまで波及し大流行している。 私の付き合う人のなかでも、ジョギングしたりタバコを吸わなかったり、酒を飲まなかったり、野菜サラダをパリパリと食べている人がふえている。
それが健康にいちばんいいことはわかるが、しかし、なにもそこまでやることはないじゃないかと思うこともある。 これは健康幻想である。
名古屋大学の飯田経夫教授が、どこかで、いまの度はずれた健康ブームを見ていると、セックスがいちばん健康に悪いから、そのうちセックスをやるのはやめようといいかねない、という皮肉をとばしていたが、やはりこのようにして健康ブームが度はずれになってしまったり、みんなだんだんストレスのある仕事から逃げようとしてしまうと、ますます精神力は弱くなっていく。 ひいては日本の企業の活力も弱まってくる。
そういう傾向が経営者にもみな出ていると思う。 一説によれば、アメリカ経済が弱くなったのは、カリフォルニアあたりから健康ブームがまき起こってからだという。
よくアメリカのエリートは、健康が第一で、タバコを吸わない、深酒はしないといわれている。 それがエリートの条件になるのは、自分をきびしくコントロールするだけの意志力が必要だからだといわれている。
自己節制のできない人は、エリートではない。 しかし私などにいわせると、これはとってつけた理屈にすぎない。

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